目次
(1)畦作りの意味
(2)均平化の意味
(3)適度な水持ちと透水性
1)稲づくりの3大ポイント(基礎)
昔、よく教えられました。「田の字のごとく畦をしっかり作ることから稲づくりは始まる」と。
稲作りには、3大ポイントがあります。
- 畦をしっかり作り、そして守る。
- 田面を均平にする。
- 適度な水持ち(透水性)を確保して、毎日水周りをする。
これは、ありとあらゆる技術の受け皿になります。
これが、整ってくれば技術は生きてきます。
これが揃うということは、「田んぼが最も田んぼらしい姿になる」ということです。
『田んぼを田んぼらしく』すること、これが最高の技術です。
2)「育土」と双璧をなす「水の力」
実は、この3つのポイントは、いずれも「水」に関わるものであることにお気づきでしょうか?
稲作文化が、遥か古代より絶えることなく受け継がれてきたのは、水の力に依るところが大きく、水の力を最大限に利用してきたからだと言えます。
本書ではこれまで「育土」を中心に話を展開してきましたが、水稲栽培で双璧をなすのは「土」と「水」です。この「水」をいかに生かすか、水稲栽培にとってきわめて大きなポイントになってきます。
3)基礎づくりを徹底する
‘土台作り,<①畦作り、②均平化、③水持ち(水周り)>は最も基本となる重要な技術です。もう少し踏み込んで見ていきましょう。
(1)畦作りの意味
稲の生育が良くきれいで、端から端まで真っ平らに生育が揃っているような田んぼの畦は、強く美しく手入れが行き届いているように思われます。何かしらの因果関係があるように感じられる時もありますが、それだけ栽培全般にも「手入れ」や「観察」が行き届いているのかもしれません。
「畦から水が漏れる」または「水持ちが良くない」というのは何を意味するのか?
それは以下のことを意味します。
- 田んぼの水温が下がる
- 水に溶け込んだ養分が流亡する
- 水田生態系が安定しない(推測)
雑草対策としての田植え後のボカシ散布は、水温が高い方がより有利です。田んぼで温められた水を養分共々逃してしまってはせっかくの技術の効用も半減してしまいます。‘畦漏れがどの程度で抑えられているか,これはボカシ散布の結果を左右するきわめて重要な問題です。
他にも水温が下がってしまう弊害は極めて大きいものがあります。微生物を始めとした土壌生物の活動は、適温以下の温度帯ならば、水温(地温)が高いほど活性化します。すなわち水温は、‘土壌養分の有効化,に強く影響し、稲の初期生育に多大な影響を及ぼします。特に田植え時期は、気温(地温)が低いため、地力窒素の発現(地温15℃以上)が乏しい場合がほとんどです。低温付近では僅か1~2℃の差でも生物活動にきわめて大きな影響を及ぼすため、漏水による水温低下は要注意です。
また観察からは、田んぼが適度な水持ちと適度な透水性(地下浸透)を確保することで、水田生態系が安定し生物間のつながりが濃密になるような印象を受けます。つまり水温、養分状態、水の流れが一定レベルで安定化することで、土壌微生物のコロニー形成や他の生物の活動を促進させる方向に一斉に動き始めるように感じられます。
忙しさの中、畦の管理が大変に感じる時もありますが、毎日の水周りで踏み固められ、畦草がきれいに刈られた畦は実に美しい雰囲気を醸し出しています。畦は、稲を育て、田んぼの生き物達も育んでくれます。できれば畦は美しく管理したいと考えています(写真14)。
(2)均平化の意味
もし田面の高低差がなく完全に均平であれば、水管理はどれほど素晴らしいものになることでしょう。田面が均平である最大の利点は、状況に応じた水位を田んぼ全体に的確に設定できるということです。
もし、田面が不均平であれば、①稲の生育が揃わない(欠株含む)、②田面の高い所に雑草が発生する、③田面の低い所はイネミズゾウムシの害を受けやすい、などの弊害が生じるおそれがあります。そのため④高低差が大きい程、稲や雑草、場合によりイネミズゾウムシとのかね合いをはかる必要があり、それだけ水管理は難しくなり、適切な水深を維持することも難しくなります。また、田植え前ならば、⑤代かき時に田面が不均平であると様々な問題が生じてきます。
例えば、田植え後間もない頃は、深水にすると田面の低い所の苗は水没し、逆に田面の低い所に合わせた浅水管理を行うと高い所が露出してしまいヒエ等の多発を招くことがあります。さらに、田面が高い所ほど表層土のトロトロ層は薄く、田面が低い所ほどトロトロ層は厚く形成される傾向が見られます。そのため、どうしても田面が高い所ほど土は固くなりやすく、コナギ等雑草の発生も多くなってきます。
ゆえに、田面の均平化は栽培管理上欠かすことができない重要ポイントなのです。
(3)適度な水持ちと透水性
稲の生育にとっては、「水持ちを良くする」と同時に、「適度な透水性」(水の縦浸透)を確保することが必要になってきます。特に代のかき過ぎによる土壌物理性の悪化(土壌構造が目詰まりを起こし、透水性が極端に悪くなること)は、水稲根の伸長を抑制し、雑草やイネミズゾウムシを誘発するなど、各種弊害を複合的に発生させてしまう可能性があります。すなわち稲の生育にとっては、適度に水持ちがあり、適度に水が地下に浸透していく必要があるということです。‘流れる水は決して腐らない,と言います。土の中にも「適度な水の流れ」が必要です。水持ちと透水性については、次項(代かき)でもう少し詳しく見ていきましょう。
4)まとめ
‘水,をいかに生かすか。これは水稲栽培上、もっとも大切で、もっとも重要な命題のひとつです。水を最大限に活かすために①畦作り、②均平化、③適度な水持ち、には細心の注意を払いましょう。
~「漏水させず、淀まさず、水は適度に持って、適度に減るのがよし」~