4.代かきについて

目次

1)土壌に及ぼす影響が最も大きい作業

2)日減水深は1.5~2㎝に調節

3)深水の浅代かきはコナギ対策に有効

4)間近で体感する深水代かきの効果 ~水槽実験~

5)深水浅代かきの真髄 その1 ~微生物が集結する~

6)深水浅代かきの真髄 その2 ~もうひとつの可能性~

7)技術的補足 ~2回代かきと深水浅代かき(植代)~

(1)コナギ対策の実際例
(2)荒代から植え代までの間隔
(3)土が居着いてしまう場合どうするか?

1)土壌に及ぼす影響が最も大きい作業

代かきは、土壌に最も大きな影響を及ぼす作業です。水稲栽培の双璧をなすのは「土」と「水」であると述べましたが、代かきは、土と水を融合させるがゆえに、土壌に与える影響は計り知れないものがあります。ゆえに細心の注意を払う必要があります。

それはつまり、雑草発生に及ぼす影響も大きいことを意味し、裏を返せば、代かきしだいで雑草は減りもすれば増えもする可能性を十二分に含んでいるということです。

写真15は、畦ひとつ隔てて隣接する圃場の様子を撮影したものですが、一方はコナギだらけでした。両圃場とも同じ農家が管理しており、苗や栽培方法にほとんど違いはなかったのですが、コナギが多発した田んぼでは、田面のデコボコをなおすために、田んぼの中を何度も往復したということでした。

一概に決めつけることはできませんが、代の掻き過ぎによる弊害が出た可能性が推測されます。以前私も自然農法センター農業試験場の田んぼで代の掻き過ぎにより物理性を極端に悪化させてしまい(日減水深は通常なら2.5cmくらいのところが1㎝未満になり水が全然減らない)、稲の根の伸長が抑制され、コナギを大発生させてしまった経験があります。やはり、水持ちも大切ですが、透水性も必要なのです。ではどれくらいの透水性が必要なのでしょうか?

自然農法無農薬の田んぼに多発するコナギ
自然農法無農薬の田んぼに多発するコナギ
 
雑草発生が皆無の自然農法無農薬の田んぼ
雑草発生が皆無の自然農法無農薬の田んぼ
写真15 畦ひとつ隔てた隣接圃場。栽培管理のちょっとした違いにより雑草の発生状況に差が出る。(2002年7月7日 山形県船形町にて撮影)

2)日減水深は1.5~2㎝に調節

畦漏れを畦波シートなどで完全に食い止めることができたなら、日減水深(主に地下浸透、葉面からの蒸散、田面からの蒸発による1日の水深の減少量)は、およそ1㎝~2㎝くらいまでが適当と思われます。しかし土畦の場合は、その強度によりますが、漏水を考慮する必要があるので、それよりはやや日減水深は大きくなります。

この日減水深にはいくつか留意すべきポイントがあります。

まず、用水温が高い地域と低い地域では日減水深の許容範囲は大きく異なってきます。用水温が低い場合、日減水深が大きくなると田んぼが冷え切ってしまう可能性があるため、日減水深はできるだけ小さく設定する必要があります。用水量が少なく必要量を十分確保できない場合も同様に日減水深は小さいほうが有利です。この時、水持ちを意識するあまり代かきが過ぎて物理性を極端に悪化させてしまわないように注意が必要です。

また、元々水持ちが良い圃場もあれば、ザル田と言われるほど元来水持ちが悪い圃場もあります。すなわち、水持ちが悪い圃場では、土壌にタイヤで鎮圧を加えたり、代かきを丁寧に行うなど、田んぼにかける負担が大きくなってきます。それは逆に物理性の悪化を招く可能性も含んでいることになります。

すなわち、用水温が高く、水量が豊富で、水持ちが良い田んぼというのは、雑草抑制を考える上では条件的に大変恵まれていると言えます。場合によっては初期過繁茂の原因にもなりますが、基本的には土壌からの一定の養分供給(地力の発現)があり稲の初期生育は良く、雑草対策としての米ぬかやボカシ散布の効果も表れやすいと言えます。反対に用水温が低い、水量が少ない、水持ちが悪い田んぼは条件的には雑草制御の難易度は高く様々な対策的工夫が必要と言えるでしょう。まずは、畦波シートの設置など、畦の強化から始まります。

水持ち(透水性)は、主に代かきの加減で調整を行うわけですが、前述したように、目的とするところはひとつ「水持ちの確保」と、「適度な透水性」です。その目安となる日減水深の許容範囲はおよそ1~2.5㎝程度です(これはあくまで目安です。田んぼの条件によって大きく異なってきます。湧水などの自然流入があればその分日減水深は小さくなります)。理想を言うなら、下層は極力練らずに(土壌団粒の維持)、水持ちを確保したいものです。そのヒントは植え代かきの方法にあります。次にコナギ対策と併せて植え代かきのコツを見ていきましょう。

3)深水の浅代かきはコナギ対策に有効

雑草対策(特にコナギ)を考えるなら、多くの実践例(体験)から‘深水の浅代かき(植え代),は大変有効です。水をたっぷりと張り(水深7~8㎝)、浅めに植代かきを行い(深度5㎝)、ロータリーは高速回転(PTO最速)、走行速度はゆっくり(低速)、というのが基本的な方法です。特にコナギの抑制効果は高いものがあります。土壌型の適応性もかなり広範囲です。難点は、深水のため走行跡が全く見えない、ゆっくり走行するため時間がかかる、といったところでしょうか(写真16.17)。

深水代かき
深水代かき

写真16 深水浅植え代の様子。トラクター走行跡が確認できない程度まで水を深く張るのがコツ(水深5~8cm)。イメージは、まるで‘湖面を航行する船,のよう。
(2006年5月28日、島根県安来市にて撮影)
トラクターの爪の長さを確認
トラクターの爪の長さを確認
写真17 トラクターの刃長を事前に確認し、<水深cm+代かき深度cm>からロータリー部のどの部分に水面ラインを合わせると希望した代かき深度になるのかあらかじめ検討をつけておく。例えば水深8㎝で代かき深度を5㎝にしたい場合、写真トラクターでは大体矢印部分に水面ラインを持ってくるとよい。

雑草制御の原理(メカニズム)は至って簡単です。深水にして浅めに代かきすれば、田面水は完全な‘泥水状態,になってまっ茶色に濁ります。深水の浅代かき(植え代)は、この‘泥水状態,を作りだすのが狙い(ポイント)です。

泥水状態は、土壌粒子が水中に巻き上げられ、拡散している状態です。沈降速度の差で、砂やシルトなど比重の大きい粒子からいち早く沈んでいき、最後に最も微粒子の粘土等がゆっくり時間をかけながら沈降してきます。まるで雪のように表層にどんどん積み重なっていきます。こうして土壌表層に仮のトロトロ層が出来上がります。

この時既に土壌微生物の働きかけは始まっており、独特のトロ味を帯び始めます。腐植が多く微生物が十分に生息活動している土壌ほどトロ土の形成は進みます。トロ土形成における土壌状態(微生物相、腐植量)の差は明らかです。

さて、コナギは発芽時に光を必要としますが、発芽可能深度は、表層僅か数mm(主は2mm)であると言われています。つまり僅か数mmのトロ土とは言え、種子がこのトロトロ層に埋もれてしまうと、コナギの発芽率は低下する、というわけです。

4)間近で体感する深水代かきの効果 ~水槽実験~

これを間近で体感できる方法があります(参考文献:林広計「自然農法普及展示実証ほ場における水田雑草対策の提案と結果解析(2004~05)」・EM活用技術事例集2006に所収)。水槽またはプラスチック容器を用意し、コナギの発生が見られる田んぼの土(コナギが多発する田んぼの土が理想)を入れて水田に見立てます。ひとつは①深水にして代かきし(土と水の量を1:1でかくはんする)、もうひとつは②ヒタヒタの浅水にして土をかくはんします。①深水代かきは泥水状態になりますが、②浅水代かきは土をこねた状態になります。ここで私が行った簡単な水槽実験の様子を紹介しましょう。

プラスチック容器を27個用意し、様々なコナギ優占水田土壌(黒ボク土、灰色低地土など)を用いて、①浅水代かき、②深水代かき、③深水代かき(代かき後、浮遊物を除去)の3処理で、9反復の試験を行いました(一部ポットを除き2回代かき<2回目代かきは雑草の発生を確認した後に実施>)。代かき後はすべての容器の水位を同じにしました。コナギの発生は概ね処理③<処理②<処理①の順に少なくなりました。中には処理①<浅水代かき>は、コナギが多発したのに対し、処理③<深水代かき(浮遊物除去)>は1本もコナギが発生しなかった場合もありました(写真18)。

まるで絵に描いたように、まるで手品のように、コナギの発生が調節されました。‘手品のタネ,は水の量だけですから、改めて驚きました。これを田んぼで実現させればよいのです。「百聞は一見にしかず」です。間近で体感するとイメージが明確になるので、実際の代かきに迷いが生じません。興味のある方は、一度試して見てください。ちなみに効果が顕著に見られるのは、発芽可能深度が最も浅いコナギです。深さ数cmから発芽が可能なヒエやホタルイ等にはコナギ程の効果は見られないと思われます。

 
写真18 代かきポット試験の様子(植え代かき後39日、左写真:灰色低地土・埴壌土、右写真黒ボク土壌・埴土)。それぞれの写真の左端ポットから①浅水代かき、②深水代かき、③深水代かき(代かき後、浮遊物を除去)の順。①浅水代かきではコナギが多発しているが、③深水代かき(浮遊物除去)ではコナギの発生は極めて少ない(左写真の場合発生は皆無)。また植え代後の浮遊物を除去しない②深水代かき<中央ポット>では、2回代かきにより浮いたコナギは何日も浮遊し続け、根が土壌に居着くと活着する傾向が見られた。コナギの個体数は少ないが単体の生育量が大きくなるケースが観察された。また1回の深水代かき処理でも同様にコナギが減少する傾向が見られた。
実際のところ、深水代かきだけで雑草(コナギ)を抑制できるわけではないことを専業農家になって痛感しています。基本はやはり稲が育ちやすい土を育てることに尽きます。その上で(しっかりとした土台の上に)代かきなどの技術を工夫し雑草対策を行っていくことが大切です。
特に秋処理の項で述べた、稲ワラをいかに還元していくかは(田んぼに戻していくか)は、雑草対策にとっても最重要課題だと感じています。

5)深水浅代かきの真髄その1 ~微生物が集結する~

深水浅代かきは、前述した物理的な雑草抑制効果のみに帰結するわけではありません。実は、土壌粒子といっしょに水の中に巻き上げられた土壌微生物は、電気的に粘土粒子と結びついて、沈降速度の差により、同じく土壌表層に集結してくる可能性があります(推測)。

先ほど、仮のトロトロ層が形成され始めると同時に微生物の働きかけは既に始まっていることについて触れましたが、そうした現象を繰り返し観察していると、深水代かきは、浅水代かきに比べ、トロ土の形成がスムーズに進むように思われます。特に田面は、温度、栄養、酸素が一定の好条件で整っていると考えられるため、微生物が活性を高める格好の場と言えます。

表層の土壌微生物の活性を高め、トロトロ層の形成を促進することは、秋からの重要な命題のひとつでしたが、土壌微生物を表層に集結させる可能性を秘めた深水浅代かきは、その理に最も適った方法であり、現段階では植え代かきの最有力であると思っています。

つまり、土が十分育ってくれば、必ずしも‘深水代かきにこだわる必要はない,と言うことかもしれません。実際、浅水代かきの優良事例もあります。

いずれにせよ、自然農法にとっては、育土(土の力の発揮)に連動していく技術が求められることに変わりはありません。

6)深水浅代かきの真髄その2 ~もうひとつの可能性~

以前、トロトロ層が発達したある田んぼの土を手ですくい上げて驚いたことがあったのですが、トロトロ層の下は、まるで水が浸透していないような適度に潤った隙間構造の発達した土だったのです(写真19)。埴壌土であったことも要因かもしれませんが、この時、トロトロ層は想像以上に水を遮断する機能を有しているのかもしれないと感じました。

自然農法無農薬の田んぼのトロトロ層
自然農法無農薬の田んぼのトロトロ層

写真19 トロトロ層が発達した土壌(灰色低地土/埴壌土)。なめらかなクリーム状のトロ土とボソボソとした層に明確に分かれている。この年、コナギの発生は皆無であった。僅かにミゾハコベと藻類のシャジクモが確認できる程度であった。反収はコシヒカリ10俵。(2004年6月17日 島根県安来市にて撮影)

微粒子の集合体とも言えるトロトロ層の構造から推測すれば、田んぼ全体がトロ土で覆われれば十分な水持ちが確保できる可能性が考えられます。すなわち、深水浅代かきはトロトロ層の形成を促進させると考えられるなら、同時に水持ちの確保にも優れた効果を発揮する可能性があります。トロトロ層の水持ち効果については検証する必要があります。

ちなみに、元来水田はすき床層(作土下に見られる硬い層で、農業機械による鎮圧や粘土等が土壌孔隙に集積することによりち密化されてできる層)により水を湛えることができると考えられています。

十分な検証は出来ていませんが、深水浅代かきを1回行うだけで、一定量のトロトロ層を形成させることができれば、水持ちと排水性を高レベルで兼ね備えた、水稲にとって理想的な土壌構造を形成できる可能性があります。つまり、深水で表層のみを攪拌することにより、表層はトロトロで、その下層は隙間構造が発達した土壌環境を誘導できる可能性があるということです。

土壌条件を選ぶ必要はありますが、元来水持ちの良い粘質系土壌で、一定量の腐植があり有用微生物の十分な生息活動が期待できる、すなわちトロトロ層の出来やすい圃場なら十分可能性があります。この場合、春処理の項で述べたように、前処理として最後の耕起時に砕土をきっちり行い表層の土壌粒子を細かく均一化しておくと良いでしょう。この工程は、通常耕起とは別に考え、荒代かきの代わりとして明確に位置づけます。

雑草対策上、2回代かきが有効であると言われています。荒代かきと植代かきの間隔を10~15日間開けることによって土壌表層の雑草種子を発芽させ、植え代かきにより土壌表層の種子密度を低下させるという考え方です。しかしある程度育土が進み(ヒエ、ホタルイが少ない)、初期のトロ土形成がスムーズに進むならば、経験的事実として、荒代かきと植え代かきの間隔が短くても(例:1~2日間)、コナギなら十分抑えられます。

すなわち、トロトロ層が形成されるなら1回の深水浅代かきで十分雑草対策もクリアできるということです。またクログワイやオモダカ等塊茎で発生する雑草が多い場合は、田植えまでの長期湛水(冬期湛水も含む)はかえってそれら雑草を増やしてしまう可能性があるので注意が必要です。

自然農法ではこれまで水持ちと雑草対策を考慮し、2回代かきを前提としてきたため、‘深水浅代かき1回のみで済ませる,という試みは一部に見られる程度で、ほとんど行われていません。代かきは、土に水を含ませロータリーで強く攪拌するため、土壌の物理性を急激に悪化させてしまう可能性があります。また代かきのちょっとした加減で雑草が減ったり増えたりするなど、土壌に及ぼす影響はきわめて大きいものがあります。

特に物理性を悪化させないようにするには、必要最小限にとどめておく必要があります。特に2回代かきは注意が必要です。しかし実際は代かき過多と思われる事例が多く見られます。

繰り返し述べているように、①水持ちは十分に確保する必要がありますが、②下層は練り過ぎないようにして隙間の多い土壌団粒を確保しておくことが望まれます。深水浅代かきは、そうした①水持ちの確保と②団粒構造の維持を実現(両立)できる可能性を秘めた一例ですが、代かきは結果を左右しかねない重要な栽培管理だけに、深水浅代かきだけにとどまらず色々と検証を重ねていく必要があります。

あれから色々と検証してきましたが、1例として、水持ちがとても悪い田んぼでは、代かき1回だけでは、十分(最適)な水持ちの確保は難しいと考えています。水持ちの悪い田んぼでは、やはりそれなりに土を練る必要があります。

7)技術的補足~2回代かきと深水浅代かき(植代)~

(1)コナギ対策の実際例 

2回代かきと深水浅代かき(植代)・コナギ対策の実際例
2回代かきと深水浅代かき(植代)・コナギ対策の実際例

(2)荒代から植え代までの間隔

「荒代かきから植え代かきまでの期間(雑草の発芽までの期間)は、関西の場合、5月で15日程度、6月で10日程度である」(原川達雄「EMボカシ肥(発酵堆肥)の利用」より:農文協「農業技術大系・作物編2」に所収)と言われていますが、その年の天候や圃場条件また雑草種により大きく異なりますので、注意が必要です。慣れないうちは観察を行い自分の目で確かめることが必要です。畦の上からは見えなくても、田に入り土を手に取ってみるとコナギがびっしり発生していることもあります。

(3)土が居着いてしまう場合どうするか?

<2回代かき/深水浅植え代>の問題は、粘土質土壌(埴土)の場合、荒代かきから植え代かきまでの間隔が一定期間空いてしまうと土が完全に居着いて(固まって)しまうということです。土が居着くと浅代かきではタイヤ跡がくっきり残ってしまい田植えに大きな支障が出ることになります。

では、土が居着いてしまう場合はどうすればいいのか?方法は以下の3通りがあります。

①植え代かき(仕上げ代かき)時に、タイヤ跡が残らないように、代かき深度を深くする(例:深度10㎝)。この場合でも代かき時の水深が7~8㎝あれば、十分に泥水を作り出すこと(深水植え代)は可能です。通常ロータリーが有効。

②計3回代かきを行うことになりますが、中代かきを行い、土が居着く前に植え代かき(深度5cm)を行う。

③荒代かき後、当日もしくは翌日に、植え代かきを行う(深度5cm)。

上記はいずれも現場で実践され効果が見られている方法です。圃場条件(雑草の発生状況、用水環境、土質、水持ち等)に応じた方法を選びます。

代かき方法は、田んぼの条件や目的に合わせて変えていくことが大切です。荒代かきや植代かきの組み合わせも含めれば、代かきのバリエーションはかなり豊富です。検証を重ねていくことも面白いと思います。